昨年11月の月例経済報告で、日本経済はデフレ状況にあると政府は公式に「デフレ宣言」した。2001年3月?2006年8月以来であり、消費者物価が大幅に下落している状況を追認したに過ぎないし、金融政策や為替を意識した発言かもしれないが、デフレ宣言後、日経平均株価が一時9,500円近辺から3日間ほどで9,000円レベルまで下落し、嫌気したようにも見えた。デフレは株価にとって天敵?と思われているだけに、その後の株価の動きを懸念する声もあったが、結果的には大きく切り返して、年を明けた本日(1月8日ザラ場)の日経平均株価は昨年来の高値を更新している。
「株式はインフレヘッジになる」、「株価はインフレに先行する」、「株価は経済を映す鏡」などと証券会社の入社時に教えられた者からすると、「良いデフレ」もあるとか、個別で魅力のある銘柄を探せば良いとは言いながらも、全体の株価水準(例えば日経平均株価)に強気姿勢を続ける理論展開も難しい。どのような指標を使えば良いのかと考え、久しぶりに名目GDPと株価(株式時価総額)との関係を調べてみた。久しぶりにというのは、1980年代のバブル前までは、株価と名目GDPの関係の指標を頻繁に使っていたが、1988年頃からは大きくカイ離して説明することができず、使うのをやめていたから。実際に、1985年くらいまでは、株価と名目GDPとの連動性が非常に高く、期間等の取り方によって差異があるものの、相関係数は1に限りなく近かったという記憶がある。
今回は少し荒っぽいが、1955年から2009年までの約50年間の年間の名目GDP(09年は7−9月の年率換算)と東証時価総額の年末値を抜き出して分析してみた。まず1つは、名目GDPと時価総額の相関度。1955年から2009年までの期間の相関係数は0.9と思ったより高い。1985年までの相関係数が0.98と高かったことが影響しているためであり、1986年以降は0.2程度とほとんど関係がみられなくなっている。ただ、2000年以降は、連動性が復活してきているように思える。
もう1つの指標は、時価総額を名目GDPで除した数値の分析。昨年の東証1部の時価総額は約302兆円に対して、名目GDPは約480兆円(推定)であり、除した数値は0.63。株式市場の規模が経済規模に比較して非常に小さかった時(0.2程度)や、異常に拡大した1989年のバブル時(1.45)を含めて、平均すると約0.7。直近(2000年以降)では概ね、0.5から1の水準を動いており(当期間の平均も約0.7)、昨年の3月(日経平均7,000円レベル)は0.5と最低レベルにあった。昨年末の0.63というレベルは、名目GDPと時価総額との関係で見て、高い水準ではないとも言える。
日経平均株価は09年の年初から年末まで1年間で約2割近い上昇となっているが、S&P社調べによると、企業の時価総額をもとにした昨年の世界45カ国のドル建ての株価上昇率は、日本は3.8%で下から2番目となっているらしい。円高になっていることと、日経平均株価ほど時価総額の大きい銘柄が上昇していない(特に金融株)ことが原因となっている模様で、やはりデフレ(円高も物価下落要因)が株価を抑えているといえるかもしれない。デフレの早期脱却が、株価が継続的に上昇するための大きな条件であることは否定できないが、必ずしも、物価が下落する状況下で、株価が上がる理由がないとも考えていない。デフレが続く予想との下で株価が上昇していると考えるのではなく、現在は、悲観が先行して大きく株価が売られた後の、割安修正の途上と考えた方が良さそうだ。
Written by K.S